メロンと生ハム
基本的に 江流は人との接触が苦手だ。
自然 無愛想になるし 無口で無表情になるので
通学している中学のクラス内でも
孤独な存在として 認められている。
クラスメイトが 特に女生徒が 遠巻きに自分を見ては騒ぐのも
江流にとっては煩いだけで うれしいとも楽しいとも思わなかった。
だいたい 江流はすでに僧だ。
この時代 別に肉食妻帯をするのが 僧という身分のものでも
当たり前の世の中だろうと、
江流は 女は煩く邪魔な存在としてしか 認めていない。
そんな彼の様子を見て ため息を吐くのは 養父の光明三蔵その人である。
「どうして そんなになってしまったんでしょうかねぇ。
私は恋する事は悪くないと思いますが・・・・・ねぇ、江流。」
「そんなこと言って お師匠様だってお1人じゃないですか。
女など 煩くて 騒ぐだけの生き物ですよ。私には 必要ありません。」
「まあ 私の事は その気になるかならないかの問題で、
私は 女性をそんな目で見てはいません。
誰かを愛するということを 自制しているわけではありませんよ。
むしろ 誰かを愛するということは 己を強くする要因になると考えています。」
「では誰かを愛すると 強くなれるのでしょうか?」
「どうでしょうかねぇ。
それは 愛し方や気持ちの持ちようにもよると思いますが、
相乗効果を生むためには
まず 自分が強くならないと ダメかもしれませんねぇ。」
養父の説明に むっとした表情を隠そうともせず、江流はため息を吐く。
「それじゃ まず 自分が強くなっていなければ
話しにならないのではないですか?」
「そこをさらに 愛というものが 強くするんですよ。
ですから 江流、強くおありなさい。」
光明は 静かな微笑をたたえて 江流を諭した。
後日。
江流は 光明に頼まれて 使いに出た。
嗜好品の煙草を切らしたとかで それを買いに行かされたのだが、
いつものタバコ屋に行くと店先には
見慣れた老婆ではなく1人の少女の姿があった。
店先に立った人影に 読んでいた本から顔を上げた少女を見て 江流は驚いた。
クラスメイトだったからである。
「いらっしゃいませ 何を差し上げましょうか・・・と言いたい所ですが、
江流君は未成年ですので、販売は致しかねます。」
「俺が吸うんじゃねぇ、使いで来ただけだ。これを1カートンくれ。」
そう言ってある銘柄を指し示す。
「じゃあ お使いに間違いがないね。」少女はそう言って
後ろの棚に手を伸ばした。
「どういう意味だ?」
「隠れ煙草をするような人は 1カートンなんて買い方はしないよ。
それに その銘柄は あまり人気がなくって
光明様用に取り寄せているものだからね。
他の人には売れないんだ。」と微笑ながら 説明してくれた。
江流はの笑顔に見惚れてしまった。
は クラスの女生徒の中でも静かで
いつも本を片手にしているような存在だったからである。
だからと言って 江流のように浮いている事もなく、
ちゃんと友達付き合いも出来るようなそんな少女だが
今のように微笑んだ所は見た覚えがなかった。
不覚にも 江流は自分の心臓が ドキンと波打ったことに 舌打ちをした。
その少女の後ろから いつもの老婆が出て来て 江流に気付くと頭を下げた。
「、江流さんには光明様のいつもの煙草を出して差し上げておくれ。
そろそろ買い置きがなくなる頃だと思っていたんですよ。」と 少女に言う。
「大丈夫よ おばあちゃん。
江流君とは クラスメイトで顔見知りだから・・・・・。」と呼ばれた少女は、そう返した。
老婆から煙草とつり銭を受け取ると 江流は帰ろうとした。
「江流さん すいませんが と一緒にお寺まで行ってもらえませんか?
お寺に届け物があるんですが 1人では持ち切れないんです。
さあ もさっさと仕度して 荷物を持っといで。」と老婆は江流の返事も聞かずに
ことと次第を決めてかかっていた。
仏具店から届いた注文の仏具は 箱がやたらに大きい。
それほど重くはないのだが 1人で運ぶのには 無理があった。
受け取りの紙を 老婆から渡されて は 箱の片方を持ち上げた。
「江流君 よろしくお願いします。」そうに言われてしまっては、江流も断りきれず
もう片方を持ち上げると 2人は寺に向かって歩き出した。
「おまえ 下の名前は と言うのか?」
「えっ?あぁ そうだよ。私の家があそこだとは 知らなかったでしょ?」
学校ではないせいか は気軽に話しているようすだ。
「ねぇ ちょっと聞いてもいい?」
「なんだ くだらないことには答えないぞ。」
「じゃ いいです。くだらない事ですから 止めときます。」
江流の反応に はあっさりと引き下がった。
江流はダンボールに掛けている手が 痛くなってきたのを感じていた。
自分はまだ このままでもいけるが の方が手が痛いのではないだろうか?
「おい 荷物を1回降ろせ。」は言われたとおりに 箱を降ろした。
江流は の前に行くと箱を持っていた手を掴んで 広げさせてみた。
案の定 の手の平は真っ赤になって とこどこにうっ血した紅い痕があった。
「痛かったのなら もっと早くに言え。」
ポケットのハンカチを取り出すと 角が当たっていたあたりを巻いてやる。
「江流君 ありがとう。」俯いた耳元に 柔らかな声で囁かれて
また ドキンと心臓が波打った。
「で、なんだ?」
「何が?」
「さっき聞きたかったことだ。
今なら 特別に答えてやる、言ってみろ。」
「本当にたいしたことじゃないの、あのね この間結婚式に行ってね お料理に
メロンの上に生ハムがのったのが出たんだ。食べたことあるかなと思ってさ。」
「メロンって あの果物のメロンか?」
「うん その上に生ハムが乗ってるの。
果物にそれも 生ハムでしょ、私もなんだかいやな感じがしたんだよね。
でも 食べてみたら凄くおいしかったんだよこれが、不思議な取り合わせだけれど
メロンの甘みにハムの塩気があっててさ。
でも あぁそうかと 納得できたんだ。」
「何に納得したんだ?」
「結婚式にこの料理が出たのは 一見合わない2つのモノも 一緒にしてみると
相乗効果が生まれたりするって意味なんだろうなぁ〜って、
相性という問題はあるだろうけれど 異質なものでも一緒に奏でるハーモニィが
あるかもしれないってことだよね。
結婚するってそういうことなのかなぁ〜って 思ったんだ。
あっ、ごめんね。」
それまで 江流に手を掴まれていた事に気が付いて は手を引き戻した。
江流はその柔らかくて 小さい手をもっと握っていたかった。
その考えは 非常に自分らしくないと思ったが 否定する気になれなかった。
場所を交代して 寺への道を再び歩きながら、横を歩くを見ると 手当てしてやった
手を大事そうに 胸の辺りに当てて歩いている。
いままで 気にしていなかったが はとても可愛いと 江流は思った。
異質なものとの交わりは 江流にとって面倒なだけだったが、
こうしてみると との時間はそうは思えないものだった。
女の子と話すことも それほどいやなことではない、むしろ 心地よいとさえ思った。
だからだろうか?
そう考えた時 先ほどと同じ胸の鼓動が 波打ったようにドキンとした。
お師匠様の言った これが恋と言うものならば 悪くないと江流は思う。
が相手なら恋をしてみたいと・・・・・・・、
それには 強くあらねばならないのだと 江流はの横顔を見つめた。
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「インゲン豆子アズキ」様のBBS受リクエストで 江流で甘く でした。
初挑戦の江流君、三蔵の幼少期だと思うとどうしても甘くなりません。
ごめんなさい。これ以上はダメでした。
「インゲン豆子アズキ」様に限り お持ち帰りOKです。
